「記憶をつむぐ、語りをつむぐ」

昔から人々は糸をつむいできました。古くから続くこの技術は、大部分が機械生産に取って代わった今も、人々の生活に欠かせない大切な文化です。何本もの細い糸や小さな繊維を縒り合わせながら一本の太い糸にしていく工程は、人々が共有するものづくりの精神を本質的に表現しているようでもあります。
「記憶をつむぐ、言葉をつむぐ」は、東北大学、東北工業大学、東京大学、東京藝術大学の4校の教員や学生が集まり企画しているプロジェクトです。昔から今に伝わる工芸品の展示や、誰もが親しむことのできるイベントを通じて、今わたしたちが失いそうになっているものを未来につなげるきっかけづくりをしたいと考えています。
会場には、宮城県亘理郡山元町のみなさんが地元の機織り教室で織った布を使って制作した着物やバッグを展示し、「とん とん からり」と音を鳴らしながらの織物や糸をつむぐ体験をする場を設け昔からの技術や習慣を無理のないかたちで受け継いでいく方法を考えるヒントとします。同時に東京藝術大学の学生が「工芸・文化・日々装うこと」をテーマに制作した作品も展示し、現在における文化のあり方を多角的に考えます。また、会期中にどなたでもご参加いただけるものづくりの会や語りの会を開催し、今語られるべき言葉と、受け継がなければならない記憶を探していきたいと思います。
3月の震災で大切な糸を何本もいっぺんに切断されたような気持ちになった私たちは、今少しずつ新しい糸をつむぎだそうとしています。多くの人の言葉や記憶、強い想いと意思を丁寧に集めて縒り合わされる心の糸は、今まで以上に強く、太く、人々の心と心をつないでいくはずです。

 

11月4日(金)-11月9日(水)10:00-18:00

裂き織タペストリー制作

山元町ふるさと伝承館機織り教室のみなさん × I, CULTUREプロジェクト

皆で持ち寄った古着や布をつなぎ合わせ、裂き織(裂いて長くつなげた布を横糸にして織る織物)の要領で特大タペストリーを制作します。布をつなげて編み合わせていくだけでなく、制作に携わる人や会場を訪れた人々の記憶や言葉も一緒に織り込んでいきます。様々な思いをつむぎ合わせるタペストリーは、このプロジェクト期間中毎日制作され、今後も被災地をまわり大きくなっていく予定です。皆さんぜひ古着や使わなくなった布を持って遊びに来てください!


11月5日(土)13:00-15:00

-語りの会1-

つむがれてきた技 これからの「工芸」

山元町ふるさと伝承館機織り教室のみなさん × I, CULTUREプロジェクト

司会:阿部純(東京大学大学院)

今回の震災を通して、わたしたちがわたしたち自身の生活や文化についていかに無自覚に過ごしてきたかということを痛感しています。身につけるものひとつをとっても、既成品から選ぶことに始まり、自分たちで思い思いにつくる機会やつくることを通して考える時間を失いつつあるように思います。この会では、地域の「工芸」に向き合ってきた山元町のみなさんに織りの歴史や活動についてお伺いしながら、国際的なアートプロジェクトの中で「工芸(クラフト)」について考えてきたI, CULTUREプロジェクトのみなさんとともに、日々の生活と共にある創作行為について改めて問いなおしてみたいと思います。


11月6日(日)16:00-終了時間未定

-語りの会2-

いま、つくること

山元町ふるさと伝承館機織り教室のみなさん × 語りと記憶のプロジェクト × Date FM『What's new SENDAI』

聞き手:後藤心平アナウンサー

宮城県亘理郡山元町は、地震と津波で甚大な被害を受けた海沿いの町の一つです。町の人の多くが未だ家の片付けなどに追われ、心の傷に苦しんでいますが、人々は少しずつ前を向いて歩き出しています。なじみの場所に再び集まって機織りをはじめた皆さんは、今どのような思いでものづくりをしているのでしょうか。「いま、つくること」についての山元町のみなさんの思いをDateFMのラジオ番組『What's new SENDAI』で放送するため、聞き手に後藤心平アナウンサーを迎えます。





山元町ふるさと伝承館 機織り教室

宮城県亘理郡山元町の町役場敷地内にある「ふるさと伝承館」では、機織りや陶芸、編み物などさまざまな教室を開いて、町に古くから伝わるものづくりの知識や楽しさを後世に残そうとしてきました。現在は大部分が津波で流された写真たちの保管場所になっていますが、今回は特別に機織り教室のみなさんに本イベントへの参加をお願いしました。

I,CULTUREプロジェクト

「工芸(クラフト)」をテーマに掲げ、世界12都市をまわって行われているポーランド発の国際文化交流プロジェクトです。日本では東京藝術大学美術学部先端芸術表現科の学生たちを中心に卒業生や東京大学有志の院生とともに組織したチームが窓口となり、5月から活動しています。10月にはポーランド人ファッションデザイナーが来日し、東京藝術大学構内で3日間のワークショップを行いました。