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2011年 11月4日(金)〜11月9日(水)10:00-19:00
(最終日は17:00まで)

「記憶をつむぐ、言葉をつむぐ」展

せんだいメディアテーク


今回の語りと記憶のプロジェクトは、せんだいメディアテークにて、「I, CULTURE in Tokyo」プロジェクトを進めていた東京藝術大学有志のみなさんと共同で、「つくること」をテーマにした展示を行いました。「I, CULTURE PUZZLE」は、今年のヨーロッパの文化首都であるポーランド主催の「CRAFT(工芸)」をテーマにしたプロジェクトで、東京をはじめ世界12都市で、布に関するワークショップをやっています。その日本側の窓口である東京藝術大学美術学部先端芸術表現科のチームと協働しつつ、「つくること」と「語ること」を有機的に連関させた語りの場をつくりたい、これが今回の私たちの挑戦でした。

そして、この「つくること」をまさに日々の活動の中で実践的に考えていらっしゃる方々と協働できないかと考えていた時に、今回の震災で大きな被害のあった宮城県亘理郡山元町ふるさと伝承館に、機織り教室があることを知りました。その次の日に早速芸大メンバーと機織り教室を訪問したのが9月の初めのことです。今は「思い出サルベージ」の写真アーカイブの場所となっているふるさと伝承館の一室に高機が所狭しと並んでいる様子を見て、「これはお話を伺いたい!」と思い、山元町の齋藤さんと機織り教室の渡辺先生に自分たちの活動の主旨を伝えると、「それはいいですね、山元町のアピールになれば」とのご返答をいただくことができました。その後の数度の打合せを経て、「記憶をつむぐ、言葉をつむぐ」展は、下記のような混成プログラムで開催することになりました。

①山元町ふるさと伝承館機織り教室のみなさんの織り作品の展示と糸紡ぎ・機織り実演&体験
②「工芸・文化・日々装うこと」をテーマとした東京藝術大学の学生作品展示と「I, CULTURE in Tokyo」プロジェクトでの成果展示
③裂き織タペストリーの制作
④語りの会の開催
⑤語りと記憶のプロジェクト成果展示と採話活動
※①~③の展示や制作の空間の中に、「語りと記憶のプロジェクト」の語りを集めるスペースを設けました。「つくること」「つむぐこと」という展示のテーマに合わせて、「震災時の工夫」と「これからに伝えていきたいこと」について、絵と言葉とで来場者の方々にカードを書いてもらいます。他にも、この場で語られる言葉を東北工大の学生中心に採話していくということを行ないました。

「記憶をつむぐ、言葉をつむぐ」展スケジュール

11/3 展示準備
11/4 裂織タペストリー制作開始
11/5
裂織タペストリー制作
語りの会1「つむがれてきた技 これからの「工芸」」
山元町ふるさと伝承館機織り教室のみなさん× I, CULTUREプロジェクト
司会:阿部純(東京大学大学院)
11/6
裂織タペストリー制作
語りの会2「いま、つくること」
山元町ふるさと伝承館機織り教室のみなさん × 語りと記憶のプロジェクト × Date F M『What's new SENDAI』
聞き手:後藤心平アナウンサー
11/7-9 展示

●糸紡ぎ体験
基本的に糸紡ぎは、紡ぐ速度を足で調整しながら羊毛を手で送り出す形で一人で行う作業ですが、初めての私たちにはなかなかそれがうまくいきませんでした。足に集中してしまうと手がその速さに追いつかなくなって羊毛が途中で切れてしまいますし、手に集中すると紡ぐ速度がばらばらになってしまって同じ太さの糸になりません。山元町の方々がやる姿を見ているととても簡単そうに見えるのですが、この作業が身体化されるのにはまだまだ時間がかかりそうです。(芸大生のシモーヌさんは、さすがの集中力・身体技能で、山元町のみなさんに認められるくらいの技を習得されておりました!)

●機織り体験
山元町の方に赤いタテ糸を事前に張っておいていただき(この作業が布を織る全体の作業の2/3を占めるとのことです!)、その場で紡いだ糸も使いながらヨコ糸を通していきます。二段に分かれているタテ糸を足で組み替えながら、シャトルと呼ばれる糸巻きを横にスライドさせながら織っていきます。糸を引っ張りすぎないように気をつけながら、布の幅が一定になるように注意しながら織るのですが、不思議なもので同じ作業をしているのにも関わらず、織る人によって織り目がつまったり緩くなったりなどし、それぞれの「味」が出てしまいます。ボコボコの布は一人一人の手が関わった証。山元町の方々も「このそろっていない感じがいいんだよ」と話しておりました。「記憶をつむぐ」ということは、まさにこういうことなのかもしれません。6日間織り続けて、約4メートルの織物ができ、これも「裂織タペストリー」の一本の「糸」になります。

●裂織タペストリー制作
各所から集めた端切れの布を繋ぎ合わせて、一本の「糸」のように布を長く縫い合わせ、それらを裂織の要領で織り重ねていきます。巨大タペストリーを支える土台は東京芸大の田村さんや佐藤さん中心に木材で制作しました。その土台の上にピンで布を止めていく方法です。織り合わせた布たちの留め方については、山元町の方々にも相談し、布の交差する箇所を目立つ色の刺繍糸で×に縫って留めていく方法をとることにしました。

【会場の様子とタペストリーを織っていく様子】

4日からのタペストリー制作期間中は、タペストリーの「糸」となる布を、4台のミシンをフル稼働させてひたすら端切れを縫い合わせていきました。絵柄のつながりや、布の肌触りでつながりを考えながらひとつひとつ縫っていきます。本来静謐な時間の流れるギャラリーの中に、機織り体験の「とんとん」という音とミシンの「カタカタ」という音が充満していきます。慣れない私たちの手つきを見かねてか、山元町の方々はじめ、展示を観にきて下さった方々が「私もやってもよい?」と声をかけてくださり、「昔はよく縫ったものだけどねー」「この布めずらしいね、どこの布なの?」などお話しながらの制作となりました。ひたすら縫うことに集中し、疲れたら周りの人と話をする、そんな単純な繰り返しが、初めて会う人、世代の違う人、山元の人、仙台の人、東京の人といった背景をも一つの布の中に織りこんでいきます。どんどん形になっていくタペストリーに、来場者のみなさんにも加わってもらって、それぞれの今の思いを書き込んでもらいました。今後も宮城―東京とやり取りをする中での一つの「書簡」として、このタペストリーが活躍していくことになっています。

●語りの会と採話
展示期間中の土日には、語りの会を開催しました。土曜日は、山元町の機織り教室のみなさんと「I,CULTURE in Tokyo」プロジェクトのみなさん中心に、それぞれの個人作品についてギャラリツアーのような雰囲気で紹介していただきました。本来の織りの基本を自分なりにアレンジしてゆるく織った作品や、紙を糸によって織った作品、2年かけて縫われたこぎん刺しなどが紹介されました。糸紡ぎ・機織りの実演ののち、これからにつむいでいきたいことについて座談会を行ないました。これまでの「語りと記憶のプロジェクト」の活動でもそうでしたが、今度の震災について語るというときには、やはり家族への思い、人とのつながりが一番に語られます。「子は親のことをうるさがって聞いてくれていないようなそぶりを見せるけれど、何やかや言いながらちゃんと聞いている。今回の津波でも、その前の経験をずっと子どもに話し続けていたから逃げることができたんです」。「語りと記憶のプロジェクト」の模造紙に貼られたカードを見ても、震災の中で家族と過ごしたこと、周りの人とどのように連携をとったかなどが「これからにつむいでいきたいこと」として多く語られていました。

 今回、「つくること」というテーマを通して山元町のみなさんと出会うことができ、せんだいメディアテークでの展示を通していつもの「語りと記憶のプロジェクト」の活動よりも広範の方々のお話を聴くことができました。集中して何かを「つくる」という単純な楽しみに改めて気づくとともに、連綿と続いてきた工芸が生活に与える活力、多様さ、そしてその技を歴史と共に継承しつなげていくことの奥深さを実感した半年間でした。同様に、私たち一人一人の「語り」も、おしゃべりする楽しさの中で、それらが何らかの形で生きた言葉としてつむがれていくことが必要とされていると考えます。日曜日のDateFMの取材の後で機織りの渡辺先生がぎゅっと私の手を握ってくれたこと、そのことの意味を私は何度も反芻して考えていかなくてはならないと思っています。

本展示におきましては、山元町のみなさんにも、糸紡ぎ・機織りの先生として、タペストリー制作者として、そして織り作品の紹介者として展示室に連日入っていただきました。山元町のみなさまなくして、本展示を成功させることはできなかったと思います。この場を借りて、厚く御礼申し上げます。




文責 阿部純